浜松ホトニクスという社名を聞いたことがなくても、同社が提供したスーパーカミオカンデの中に並ぶ約1万3千本の光電子増倍管のビジュアルをご記憶の方は多いはず。光学測定装置などのメーカーである同社のグローバルサイトには多岐に渡る製品情報や、光の技術と可能性を表すコンテンツがコンパクトに収められています。
徹底した製品情報の統合によるWebマーケティング
浜松ホトニクスではコーポレートサイトの英語版がグローバルサイトと位置づけられています。英語版にしかない欧米市場でのニーズやターゲットを意識したスペシャルコンテンツが追加されているなど、グローバル市場を見据えたWebマーケティングを強く志向されている点が特徴です。
事例:浜松ホトニクス
製品情報に関してはPIM(商品情報管理システム)によりグローバルで統合されており、カテゴリー分けやインデックスを含め、ユーザーがとても探しやすく、使いやすくなっています。
グローバル展開するメーカーでは国やエリアで取り扱う製品が違うことが多く、ユーザーの混乱を避けるため、製品情報を見ようとすると海外現地法人が独自に運営するWebサイトへ移動することがよくあります。
これはこれで効率的で確実な面はあるのですが、ユーザーが現地法人のサイトから問合せをすることになるので、そのままでは本社でマーケティング効果が把握しにくいなどの弊害が生まれます。
製品数が2,000点以上あり、既に欧米やアジアの各エリアで営業体制が整っていた浜松ホトニクスのような場合は、グローバルで製品情報を統合するのは簡単ではなく、実際にシステムの構築には3年間かかったそうです。そうした苦労がグローバルサイトの問合せ率アップなどにつながっているようです。
光を探究し、深く理解するための入り口
日本語版にしか記されていませんが、社長メッセージの冒頭ではこんな風に語られています。
光の研究と、それを基盤とした製品開発を通じて、光の本質を追究する。光を通じて絶対真理とは何かを探るために、いまだ解き明かされていない領域を探求する。そして、そこから生まれる新しい知識にもとづいた応用の可能性をもとに、新しい産業を創成する。 これが私たち浜松ホトニクスの未知未踏を追求する精神です。
この言葉からは、浜松ホトニクスは単なる光学測定機器のメーカーではなく、科学する心を全面に押し出したアカデミックな研究集団のように感じられます。「Photon Terrace」というスペシャルコンテンツからは、そうした姿勢がよくうかがえます。
自分の子どもに光を説明しようとした方や、私のようにミュージアム向けに光の解説を書いた経験のある方なら実感できるのですが、光のことを正確に説明するのは難しいものです。ここでは分かりやすい光の性質の説明や光に関するテクノロジー、社会でどう役に立っているか、これからの可能性などが包括的に語られています。
冒頭の“「Photonてらす」とは”で述べられていますが、現代の科学では、光のことはまだ全体の約10%しか分かっていないそうです。サイトの狙いとしては小学生から専門家までを対象に、単に好奇心を満たすだけでなく、ビジネスシーズを探しているような方にもフォトンのことに興味を持ってもらえることを第一に考えられているようです。そこには、90%も残された未知なる領域を少しでも明らかにしていくために、より多くの人を巻き込んでいきたいという科学者らしい志を感じることができます。
このスペシャルコンテンツは日本語と英語で提供されていますが、専門的な内容に関わらず、できるだけ難しい単語を使わないように英訳されているので、ネイティブでない方も比較的スムーズに読み進むことができると思います。
可能性に気づかせ、未知の顧客と出会う
こうした姿勢が見られるもうひとつの理由として、浜松ホトニクスが扱う製品特性が背景になっていると考えられます。その製品の多くは、要素部品として様々なデバイスや機器に組み込まれて、機械・産業からライフサイエンスの分野などに幅広く使われます。したがって、未知の顧客に光の技術や可能性に気づいてもらうことがビジネスを発展させ、売上げを安定もしくは拡大させていく一番の近道なのだろうと推測されます。
浜松ホトニクスのグローバルサイトは、自社のビジョンやビジネスを成長させる要因を見極め、これに沿ったコンテンツ構成や運営を行っている優れた事例だと思います。