クオンが正式に研修生として毎日姿を見せるようになってから、グローバルサイトを立ち上げようという機運が一気に高まった。
「どうせだったら12月でウチも創業20周年だから、それに合わせてできればいいな。」
という社長の無理なリクエストもあったが、小野を中心に制作も順調に進んだ。
ところが完成プレビューを控えたある日、岡崎が血相を変えてやってきた。
「おいウチのメインクライアントのA社が倒産したらしいぞ。」
「ええっ!これからどうなるんですか?」
小野は不安な気持ちで心が浮つくだけで、何もできない自分が情けなかった。
それから数日は社内も落ち着かず、「サイトアップ、しますか?」というクオンの声にも「うん、頼むよ。」と生返事を返しただけだった。(続く)
周年サイトで新規顧客開拓を
企業にとって周年とは、既存のお客様には感謝の気持ちを表し、未来に向けた決意表明をする節目になります。そうした気持ちやメッセージを企業内外に伝えるために、周年記念パーティーや社史の編纂などを行うことがよくあります。
この周年事業と呼ばれる一連の展開の中で、最近は周年記念サイトが中心的な役割を果たしていると思える事例をよく見かけるようになりました。周年を機にしっかりとしたメッセージをより広く、あまねく伝えたいと考えるなら、Webサイトの活用は当然だと言えます。
日本企業の周年サイトの場合、ほとんどが以下のような要素で構成されています。
- トップメッセージ(感謝と決意表明のごあいさつ)
- 周年記念ロゴやステートメントの紹介や説明
- 企業の歴史や沿革を紹介するビジュアルや年表
第3回の「About Usの役割」の項でご紹介したように、海外では企業の成り立ちや規模、信頼性をまず知りたいというニーズがあります。上記の3点の中で、歴史や沿革紹介が図らずしも、そのニーズを満たしているという事例をよく見かけます。
オムロンの「history」にあるOMRON 80th anniversary videoは企業の技術の歴史だけでなく、未来への可能性も感じられる3分強のムービーになっています。
このムービーは以下のような点で優れています。
- 技術史からautomateというキーワードを導き、未来につなげている。
- automateで社会のどんな場面で貢献できるかを具体的に示している。
- 「アジアに、世界に」と、ターゲットエリアを明らかにしている。
サイト内のコンテンツはこれから更新されるものが多いようですが、初めてオムロンを知る者にとって「もっと知りたい」と思わせる充分なチカラを備えています。またデザインのイメージや、様々な文化を背景とした登場人物からもグローバルに向けて発信する意識がうかがえます。
コンバージョンの設定がないので、周年サイトを通じて見込み客を開拓をするという点はサイト運営本来の目的にはないと思われます。しかしながら、その可能性は充分広がっているように見えてなりません。
ファンの輪が広がる周年サイト
一般的に、100周年など周年の大きな節目にあたる時は周年事業全体の規模も大きくなります。それは日本も海外も同じです。
今年150周年を迎えたBayerは、グローバルサイト内で発信している150 Years Science For A Better Life というステートメントにあるように、研究開発型企業としての絶え間ないイノベーションにより、より良い暮らしに貢献してきた“誇り”のメッセージを発信しています。
事例:Bayer AG
また“誇り”のメッセージだけでなく、特設コンテンツ内は祝祭感にあふれています。3万人の従業員が集まった記念イベントや飛行船による世界ツアー、各国の従業員がBayer で働く喜びを語るMy Bayer Storyなど、日本企業の周年サイトと比較すると20倍以上のコンテンツボリュームがあります
この中で大人も子どもも楽しめる、以下のような企画が目を引きます。
- Anniversary Song:親しみ易いメロディでかなりストレートな意味の歌詞である。
- E-cards:グリーティングカードの電子メール版でデザインがよく更新されている。
- Play and Win:なぞなぞ風のクイズに答えるとiPadなどが当たる。
Bayerのような実績のある企業ならではのスケール感のある取り組みと言えそうですが、その歴史を誇るだけでなく、共に祝おうとしています。とてもフレンドリーなイメージを強く受けるコンテンツ群のトーン&マナーは、今後のグローバルサイトだけでなく、周年コンテンツのあり方として大いに参考になります。
周年事業や周年サイトでは、その時にしかできないことがたくさんあります。例えばそれは、歴史を振り返って自分たちの未来を考えてみることであったり、改まった気持ちでお客様や従業員に感謝を表現することです。
いつもとは少し違うコミュニケーションができて、新たな人々と出会うことができるこうした機会を大いに活用すべきだと思います。
周年サイトでいろんなチャレンジをしてみませんか?
次回予告:“誇り”の、その先にあるもの