先日の記事に引き続き、ゆるキャラを取り上げます。今回はひこにゃんの翌年に人気ランキングで1位を獲得した「くまモン」です。
くまモンと言えば皆様ご存知の通り、著名人であるデザイナーの水野学氏と脚本家の小山薫堂氏が緻密な計算の元に作ったゆるキャラとして有名です。
ハードが弱い県こそゆるキャラを
ラーメンとお城しか名物がない!と嘆く熊本県民がいるほど、熊本県はひこにゃんの滋賀県と同じくこれといった観光スポットがない、ハードとしては弱い県です。国内旅行ランキング*1では圏外、県別の観光スポット*2は沖縄が1,290件に対して熊本は650件と半分しかありません。そんな県が知名度を上げるため、プロモーションの一環としてゆるキャラを立てて広告することは消費者にとってわかりやすく効果的な方法です。
くまモンが効果的に知名度を上げた1番の理由は、ひこにゃんと同じく利権問題の発生しやすい著作権を初めからフリーにしたことですが、もっと大規模な広がりを見せました。
*1: 地球の歩き方国内旅行人気都道府県ランキング
*2: るるぶ国内観光ガイド県別観光スポット検索数
計算された全国規模のプロモーション
くまモンは初めの頃、今ほど人気があったわけではありません。特にメインターゲットとなる子供には怖い!と不評でした。なぜなら王道のキャラクターデザインから敢えて外した「高圧的な黒いボディ」と「鋭い目(コンセプトの『くまもとサプライズ』からのビックリした目)」を持っているからです。
ただ可愛いキャラクターで県のPRをしても沢山のゆるキャラから抜きん出るのは至難の業。くまモンは敢えてフックになる部分を作っているのです。禁じ手のデザインながらも水野氏、小山氏のその後の戦略を信じてOKを出した熊本県の本気度がうかがえます。
初めの不評を見慣れることで可愛いまでに辿りつかせ、県もPRする方法、それが著作権フリーにすることでした。
くまモンのキャラクター利用規定を読んだ人は驚くと思うのですが、熊本名産品をほんのちょっと使用しているだけ、あるいは熊本のプロモーションになると判断されれば使用できるほど敷居が低くなっています。
同じ商品でもキャラクターがついているものと、そうでないものでは商品の売上は圧倒的に違います。キャラクター開発費用も著作権マージンも発生せずゆるキャラを使える、しかも話題性もある!ということで沢山の企業が熊本のいいところ(名産品・隠れ観光スポット)を探し出し、くまモンを商品パッケージにして商品を発売しました。また、キャラクター付きの商品は食品に多いため、コンビニでも置かれたこともさらに認知度を上げたと思います。
結果、著作権フリーを上手に利用にしたことでくまモンは「キャラ+熊本のいいところ」がセットで全国どこでも企業がプロモーションしてくれるかたちになり、宣伝の役割を大いに果たしました。あの禁じ手だった個性も今では唯一無二の可愛さとなり、人気を博しています。
くまモンプロモーションの成功はクリエイターの理想そのもの
くまモンプロモーションの最も素晴らしいところは一般企業も利益を上げたこと。また経済面だけでなく地元の名産を拾い上げ、気づかなかった県の魅力を発見、長く好きでいてくれることを他県民のみならず、熊本県民に改めて気づかせることができたところにあります。
「みんなを巻き込んで楽しいムーブメントを起こしたい!」、もちろん良いものを(戦略的に)作り、クライアントの利益も上げ、経済活動、社会貢献もする。「みんなで楽しく幸せになる」ことをする。これはクリエイターの理想ではないでしょうか。
クリエイターの理想を実現させたゆるキャラ。
それがくまモンだと思います。